LOGIN俺はひくひくと眉をひそめる。
「……自分で悪霊って言っちゃうんだ。で? 俺に何して欲しいの?」 「はい! 私八島くんに踏まれて壊されちゃったのでまずそれを修理して欲しいです!」 まあ確かに踏んで壊したのだから、その意見そのものは至極まっとうである。 ただし、それはあくまで意見それ自体の話である。 「俺イヤホンなんか直せない」 そう、はっきり言って俺は手先が不器用だ。電子機器の工作なぞしたことがない。 自分で言うのもなんだが本当につまらない人間なのである。 何の特技もなく、何の取り柄もなく、何を思うわけでもなく。 でも、それを知っているからこそ身分相応にただ黙って生きてきたし、多分これからもそうなのだ。 それを、アコは否定しているわけで。 一体どうしろというのでしょう。 そんなことを悩んでいると、アコは何てことのないようにこう言い放つ。 「イヤホン専門店で直してくれますよ。数千円で」 「……高いね。で、それで成仏してくれるの?」 「いいえ」 「なんでだよ!」 意味ねーじゃねえか! するとアコは俺の手を握り、妙に真剣な顔つきでじっと見つめてきたではないか。 「だって八島くん、せっかくお姉さんに買って貰ったのに全然使ってくれる気配がないじゃないですか。欲求不満なんですよ、私」 昨日の今日で使えってか? どんだけせっかちな悪霊だよ。 俺は頭をぼりぼりと掻きながら視線を逸らし、少しだけ申し訳なさを込めながら。 「使ってって言われても……俺あんまイヤホンとか使わないし」 「ええ!? 私こう見えても八万五千円もするんですよ!?」 仰天。 「はぁ!? なんでたかがイヤホンがそんなにするんだよ!?」 「だって私、一磁極性バランスドアーマチュア型シングルBAイヤホンのフラグシップモデルですし」 「…………」 何言ってるのかさっぱりわからん。 目をぱちくりさせている俺を見つめながら、アコは眉間に少し皺を寄せながら高らかにとんでもないことを口にする。 「それにたかがと言いましたけど、他社さんのフラグシップはもっと高いですよ」 「……十万くらい?」 俺は恐る恐る言った。 「今市場にあるやつで一番高いのは百万円です」 十倍だった。 「そんな馬鹿な! たかがイヤホンだぜ!?」 「たかがじゃないですよ! いいイヤホンは高いんです! 私はフラグシップの中では安いくらいなんです! リーズナブルなんですよ、リーズナブル!」 「八万五千円でリーズナブルとかわけわかんねえ!」 イヤホンなんて百均にいくらでもあるじゃねえか! 高いっつっても三千円くらいだと思ってたら、なんだそのふざけた価格設定は! って、冗談に決まってるよな、常識的に考えて。ありえないって六十万円なんて、乗せられた俺がバカだった。 「嘘々。サバ読んだってダメだって」 俺は手を振りながらハハ、と呆れを込めながら笑い飛ばす。 「そんなことないですって。あ、スマホ借りますね」 「…………」 俺の了承も取らずに机の上から勝手にひったくりやがった。 「…………」 アコが俺のスマホをいじっている。 「…………」 アコが俺のスマホをいじっている。 「……ロックが解除できません」 当たり前じゃねーか! 「はあ……で、何がしたいの?」 三度目のため息をつきながら、弱々しく訊ねた。 窓の外からはちゅんちゅんと小鳥の啼く声が聞こえてきて、ああ、平和だなあ、とそんなどうでもいいことが思い浮かぶ。部屋暗いな。電気つけようかな。 するとアコはずいっとスマホを突き出してきた。俺に操作しろというのか。 「ブラウザを開いてください。イヤホン専門店のサイトを」 「……はい。で?」 俺はスマホを受け取ると、仕方なくアコの言われたとおりに操作した。 「値段を高い順に並べ替えてみてください」 「はいはいって……うげっ!」 俺の口から変な声が漏れる。 それを見て、アコは何故か勝ち誇ったように胸を張り、流し目で見つめてきて、ぽんと俺の背中を叩いた。 「ね? 高いでしょ?」 マジだった。 百万は一つしかないが、その下にも七十万、六十万、四十万、三十万のイヤホンが何十と存在し、画面いっぱいを埋め尽くして居るではないか。 「誰が買うんだよこれ!?」 「オーオタの方々が」 「…………」 ちらりと画面に視線を戻す。なるほど、商品にはレビューがあった。それも一つや二つではない。 頭の中に「バカじゃね?」という言葉が浮かんだが、それを口に出すのをぐっと堪え、 「音いいの?」 とだけ訊ねた。 アコはふふんと鼻息を荒くしながら答える。 「新しい世界が見えます」 「…………」 「ただ、今の八島くんの環境だとダメですね。ちゃんとしたDAPと、出来ればアンプもつけて欲しいです。音源は勿論ハイレゾで。八島くんもこれからオーオタになるんですから」 「…………」 勝手に俺の未来決められちゃいましたよ奥さん。 そもそもDAPって何よ? さっきも言ってたけど。アンプはまあわかるけど。 そんな俺の疑問をよそに、アコは高らかに宣言する。 「さ、というわけで、まず私を直して、それから色々買いましょう! そしたら私、成仏できる気がします! あ、勿論毎日聴いてくださいねっ♪」 彼女の言葉を受け、俺は悩み、悩みに悩み、この結論に達した。 「……お断りします」 「は!? 何故ですか!?」 「いや、何故って……」 言わなきゃわかんねーのかよ。「もう一度聴かせてよ」 「いいよ」 それからの日々。学校で、家で、あるいは紐育と遊ぶときでさえ、俺はアコを聴いていた。 紐育は怒りもしない。それどころかアコを聴きたがる。 HRが始まる前のつかの間に、俺は紐育と音楽を聴く。そんな日課が出来ていた。 紐育はアコをつけ、音楽を楽しむ。 「やっぱりいい音だよね。八島、他にイヤホンは買うの?」 「買わない。いらない」 「だよね」 ぱちんと紐育がウインクした。 俺は紐育からイヤホンを受け取ると、自分の耳につけて、スマホをタップ。 流れてくるのは、宝石のような、シルクのような、あるいは太陽のようなサウンド。 明るくて、きらめいて、なめらかで、心地よい。 「だってアコの音、こんなに綺麗なんだぜ? 聴いてるだけで涙が溢れてくるんだぜ?」 「わかった。だったらさ」 「……ああ」 俺はこくりと頷いた。 「しかしバイトって大変だな」 俺は紐育の勧めでバイトすることになった。 最初は神社でバイトするのかと思ったが、予想が外れた。ファミレスやスーパーのバイトだと紐育がつきあえない。 ということで、地元の村役場の手伝いというか、ゴミ捨てとか、井戸洗いとか、二十一世紀の今にもそんなものがあるかと驚きを隠せないような仕事で金を稼ぐこととなった。 「ぶつくさ言わない! 黙って仕事する!」 「いてっ! 叩かなくてもいいだろ!」 振り向くと、箒を手にした紐育がいて、彼女は巫女装束をまとい、髪の毛を結っていた。 おうおう、楽そうでいいねえ。 「だってDAP買うんでしょ? アコちゃんに相応しい、最高のDAPを」 「ああ、だってアコが可哀想じゃないか。最高の音を鳴らさせてやらないと」 とはいえ、それなりに音のいいDAPとなると、安くても十万円を超えるのだ。ファミレスのバイトを週五でやっても二ヶ月はかかる。 三十万も四十万もするハイエンド? 無理です。 それを一ヶ月で稼ぐとなると、そらもうキツくて、臭くて
アコは還った。手のひらの上には鈍色に輝く小さなイヤホンが一つ、窓から差し込む光を反射して、それはまるでダイヤのようだった。 果たして俺は今、どんな表情をしているのだろう。泣いているのか、笑っているのか、あるいは無表情なのか。それすらもわからなくて、ただ、じっと手のひらを見つめ続ける。 と、紐育がにゅっと脇から顔を出して、 「ふふ、八島。いい顔してるよ」 そう微笑みかけた。 何故だろう、その一言を受けて救われたような気がした。 何気ない一言のはずなのに、まるで乾いたスポンジに一滴の雫が垂れたようで、物凄い勢いでそれは吸収されていく。 じわっと、体に染みこんでいく。 「紐育……まあ、ね。アコは……もう、いない」 理解していたはずなのに、納得してアコを還したはずなのに。 いざ口に出してみると、酷く胸が痛んだ。 なのに紐育はカラカラと笑いながら、そっとアコをつつく。 「いるじゃん、そこに」 「……そうだな」 はは、と苦笑した。 すると何故か紐育が俺の前に回り込むと、手を後ろに組んで、申し訳なさそうに眉を落とした。 「実はね、今だから言うけど、アコちゃんにお金借りたっての、あれ嘘なんだ」 「え?」 「ずっと私の家にいたんだよ。お母さんとも事情話して、ね」 ああ、やっぱり。 心の中ではどこか想像していた。覚悟もしていた。冷静に考えればそうだろうなという気もしてきた。 紐育は全てを知っていたのだ。 ただ、だとしたら疑問が残る。 「だったら……」 紐育は窓の方へ視線を移し、俺の机を三回つついた。とん・とん・とん。 「なんでだろうね。多分……いや、いいか」 それで察した。 俺が抱いた疑問は単純で、何故そんなことをしたのか。 そしてそれに対する答えが、うぬぼれかもしれないが、俺のためにやってくれたのだ。 彼女の少し不器用な、思いやりのカタチ。 「……そうか、わかった」 ふっと頬を緩める俺。それで紐育は気
静寂のはずなのに、ちっとも冷たくなくて、少しも寂しくなくて。 ただただ、暖かい静謐が、俺たちの中に柔らかく漂っている。 そんな春のぬくもりを思わせる世界を切り裂くように、まず俺が―― 「アコ!」 ついでアコが―― 「八島くん!」 互いの力の全てを捧げ、強く抱きしめ合った。 もっとも、その時間は一秒にも満たない。 あっという間に感触が消えていき、アコの姿がまるで霞のように薄れていく。 「ああ、アコが……」 いよいよこの時が来たか。 言いたいことは沢山あった。伝えたい言葉はいくらでもあった。 でも、それはもう叶わない。 「あはは、そろそろお別れですね。あ、じゃあ最後に」 アコが目を閉じる。 そうだな、もう言葉はいらないな。する時間もない。 なら、俺に出来る、最後の思いを―― 「……ああ、実は最後に、これくらいはやっておきたかったんだ」 「じゃ、お願いします」 アコはわかっていた。いや違う。俺のしたいことと、アコがしたいこと。その思いが一致しているのだ。 おそらくは紐育もだろう。だから彼女は気を利かせて部屋を出たのだ。 「わかった」 俺はそう言って彼女と同じように目を閉じて。 ゆっくりと、自分の唇を彼女の唇と重ねていって。 「ん……」 「んんっ……」 アコが消える最後の瞬間まで。 俺たちは、ぬくもりの中に包まれ続けるのだった。
ゆっくりとスマホを取り出す。スマホにポタアンを装着し、ポタアンのイヤホンジャックにアコ本体を差し込む。 電源を入れ、音楽の再生ボタンをタップする。 その、直後。 音が流れた。アコの音だ。 でも、今までみたいに指で差し込まれた時とは違う。低音も中音も高音もまるで違う。宝石のように澄んだキラキラの高音と、それに負けないパワフルで締まりのある低音。それでいてボーカルは前にしっかりときていて、それは非常に艶があり、エロい。 さらには様々な楽器が超高解像度の画像のようにあますとこなく『楽器』となって生み出され、それは全てが渾然一体となって『オーディオ』を形成している。 まさに、本物のアコの音だ。 そしてそれは、なんというか、 「……凄い、音」 だった。 「何度か私の指で聴かせましたけど」 俺は首を振る。 「いや、違う。全然違うよ。ずっとずっと、いい音だ。なんでだ? 贔屓じゃない。本当に違う。どうして違うんだ?」 「多分それはフィッティングの問題です」 「フィッティング?」 「イヤホンというのはしっかり耳の奥にフィットしないと音が隙間から抜けてしまうんですよ。具体的に言うと低音が。高音はしっかり聴こえるんですけどね」 なるほど、そういうことか。 確かに音そのものは指で聴いた時のアコの音と変わりない。シンプルでありながら重厚。それでいて煌びやかさが同居した気品ある音。 だが細やかな点は天と地ほど違う。そして大きな点も一つ違う。 それが―― 「確かに力強い低音だ。ドスドスして、ギュッとしまってる」 この強い低音が他の音を邪魔するどころかむしろ彩りとなってさらに中高音が引き立って聞こえてくる。 音に連動するように何故だろうか、涙が出てきたのである。 音があまりにも凄すぎて、ぬぐってもぬぐっても涙があふれてくるのである。 アコが嬉しそうに頷く。 「そうです。やはり指だとどうしても隙間が出来てしまいますが、完璧にフィットした私は、最高の音が出せるんです」 「凄い……本当
それから俺たちは一旦イヤホン屋へと赴いた。 どうせなら神社から直行すればいいのではと思えそうだが、最後にアコを俺の部屋に連れて行って、そして、抱きしめたかったのだ。 まあ、すぐ消えるかと思ったら修理が完了してもアコは成仏しなかったわけだが。 冷静に考えたらそりゃそうだ。だって俺はまだ――アコを聴いていないのだから。 「これが……アコの直った姿」 見てくれは変わらないはずなのに。断線したのをただ直しただけなのに。 どうしてだろう。なんでだろう。 「はい。……どうですか?」 「綺麗だ……そうか、本当はこんな姿なんだね」 不思議な気持ちである。 アコがあはは、と苦笑する。 「といっても私はチタン筐体なので踏んだくらいじゃ壊れないんですけどね。ぶっちゃけ端子が壊れて断線しただけですし」 確かにそりゃそうなんだが、でも、やっぱり。 「でも、何でだろう。違って見えるよ」 「身内びいきですよ。……でも嬉しいです。ありがとうございます」 アコは微笑んだまま小さく頭を垂れた。 元通りとなったアコ本体を彼女に見せつけながら、そっと。 「アコ、聴いてみたい」 「どうぞ、音源はありますか?」 「この日に備えてハイレゾ沢山買ったよ。高いね、一曲六百六十円はエグい」 「ですよねえ」 お陰で今月の食費を思い切り減らさなければならなくなった。大変な事態である。 でも、アコのためならば、アコを聴くためならば、やはり最上でなければ。 と言っても俺には音楽の善し悪しなどわからないからジャンルは適当だ。これについては色々聴いて、いずれ好きなタイプを確立していけばいいだろう。 と、俺の後ろからにゅっと紐育が首を突き出し、 「私も聴きたいな」 そう言ってぺろっといたずらっ子のように舌を出した。 そんな紐育の様を見て、アコがあははと苦笑する。 「勿論ですよ、さ、八島くん」 促され、俺はアコを耳に装着する。アコはシュア掛けではなく普通に耳につけるタイプだ
神社を出て、てくてくと夕暮れに染まった街を歩きながら、俺たちはちらちらとお互いを見つめ合う。 「八島くん……八島くん!」 今にもだきついてきそうなアコの頭を、俺は優しく撫でる。 「アコ……いいんだ。もう大丈夫だから」 もっとも、倉戸京子と約束し、アコも納得し、俺も啖呵を切ったとはいえ、今更ながら悲しみと不安がぽこぽこと沸騰したお湯のようにわき出てきた。 このまま倉戸京子を裏切って逃げ出してしまおうか。あるいは開き直ってしまおうか。そんな考えがわずかに脳裏をよぎる。 「ただ、アコ……いいんだな?」 「……はい」 ためらいを感じた。でも、彼女は承諾を示した。 なら、その意志は尊重しなければならない。 でも、そんな気持ちさえも責任を押しつけるような、卑怯者の逃避であって、それが俺に自己嫌悪を与えていく。 ただ、それを口にすることは憚られた。 騙すなら、最後まで騙すべきだから。 「わかった。じゃ、行こうか」 俺はぽんぽんとアコの背中を叩く。 そんな俺たちをやりとりを見ていた紐育が、沈みゆく太陽をバックに、少しだけ申し訳なさそうに訊ねてくる。 「……私も、行っていいんだよね?」 「「勿論」」 家につき、部屋に戻ってから、俺はアコにすっとイヤホンを見せつける。 鈍色に光る、筒状のハウジング。金属の冷たさが夕日に照らされ、ルビーのように輝いている。 「アコの本当の姿は、これなんだよな」 「はい、これなんです」 アコはしっかと頷いた。寂しそうに、懐かしそうに。 俺は頬を静かに緩める。 「そうか……」 「大事にして、くれますよね?」 「勿論だ。ずっとずっと、愛用する」 言いながら、俺は強く頷いた。 アコが嬉しそうにぱん、と手を鳴らす。 「わあ、それはよかったです」 そして俺から顔を逸らし、窓から夜へ移行する藤色と薔薇色の混ざった空を見つめながら、 「お別れじゃないんですね」 と言った
「じゃあこうしようか」 と、紐育が口を挟んできた。その声は妙に弾んでいる。 「へ?」「紐育?」 ハモりはしなかったがアコと俺は同時に声を上げた。 紐育が俺とアコを相互に見やり、 「アコちゃんは八島に聴いて欲しいんだよね?」 「はい!」 アコは元気に返事をした。 「で、成仏するには満足して貰わないとダメと」 「はい!」 またもやアコは元気に返事をした。 俺は苦笑交じりのぽつりと。 「元気だなあ」 「でも八島は音楽に興味がないから嫌と」 「嫌っ
ひとしきり説明を聞いた紐育が、俺の肩に手を回しながら興味深そうに頷いた。 「へえ、そんなことが」 「そうなんですよぉ。およよよよ」 「泣くフリしない」 俺は紐育の腕をどかし、ぺしっとアコのおでこを叩く。軽くな。 さて、これらの話を聞いて紐育も呆れたことだろう。俺は紐育の方を向きながら―― 「でさあ、紐育からも……紐育!?」 「へーへーへー」 「なんか、目が輝いてるんですけど!?」 予想外の反応だった! 紐育の双眸はまるで夜景のようにキラキラとしていて、全く想定していない顔
「げ……紐育」 まあそりゃ気になるだろうね。でしょうね。 アコが俺の脇に立つとつんつんと肘でつついてくる。 「さっきも話してましたよね、どちら様ですか?」 俺は頭をぼりぼりと掻き、空を見上げた。 「……中学時代からの友達。名前は倉戸紐育。漢字でニューヨークと書いていくと読むんだ」 キラキラネームみたいなもんだが、本人は全然気にしてない模様。「金星をまあずと読んだり、火星をじゅぴたーと読んだりするよりいいじゃん?」とのこと。 ……それは論外だと思うのだが、まあ本人が嫌がってないなら何も言
体育館裏までアコを引っ張り込むと、俺はどんっと壁に手を押し当てながら彼女に向けて精一杯の睥睨を突きつける。 「な・ん・で・き・た!」 「なんでって……来ちゃいけないんですか?」 「当たり前でしょーがっ!」 言わなきゃわかんないのかよっ! しかしそんな俺の突っ込みは空しく、アコは至極真面目な顔つきでこんなことを言い放ちやがる。 「だって通学中にイヤホンはポタオデの常識じゃないですか。それってつまり、使われたイヤホンは鞄の中にあるってことじゃないですか」 色々言いたいことはあるが、取り敢えずこれ。